一番えげつない動物
というわけで床屋*1に向けてテクテク歩いていたところ、数台のパトカーに警官、そして数人の野次馬を発見。また物騒な事件でも起こったのかと思い横目で眺めてみたところ、すぐに騒ぎの原因が目に入ってきました。
猪があらわれた!
体長1m程度の、恐らく子供だろうと思われるのが2匹。猪が出ること自体はそこまで珍しくもない*2のですが、出現場所が国道沿いの空き地というのはなかなかの異常事態。万が一取り逃して国道に出られては一大事ということで、緊張感に満ちた包囲網が展開されておりました。まあ、野次馬は呑気なものでしたが。
もうすぐ近くの動植物園から麻酔銃を持った職員が駆けつけるとのことで、固唾を呑んで見守ること*3しばし。到着した職員さんが手に持っていたのは、ガス圧で針を飛ばす銃――ガス式ブロウガンとでも言うのでしょうか――でした。
その時、私の横にいたご老人が「ああ、あれじゃ駄目だ」とボソリ。最初はどういう意味か判らずにいたのですが、その言葉が正しかったとすぐに思い知ることになります。今にして思えば、猪と渡り合った経験がある人だったのかも知れません。*4
結果から先に言うなら、麻酔銃作戦は失敗でした。走り回っているから当たらない、これはまあ仕方ないでしょう。ですが問題は、動きを止めた猪に数mまで接近して矢を放った結果。
猪は毛皮で攻撃を弾いた!
これには驚愕しました。あるいは角度がズレていたのかも知れませんが、それにしてもかなりの近距離から放たれた針を弾いてのけるとは。RPGにおいて、毛皮が衣服より一段上の防具として扱われる理由がわかったような気がします。
結局ほとんどの弾は外れ。一発だけ命中したものの、浅かったのか当たり所が悪かったのか一向に眠る気配なし。ここに来て、包囲網を一気に縮めて取り押さえる作戦へと移行することになったようです。*5
ですが、包囲作戦の途中で最悪のアクシデント。猪の1匹が、包囲網を突破し国道へと逃走してしまったのです。不幸中の幸いにして車への影響はほとんどなかったのですが、猪はそのまま住宅街へと姿を消してしまいました。
ちなみに、「単なる野次馬では申し訳ない、何かあったらお手伝いくらいしよう」なんてことを考えていた私はと言えば、何も反応できずに立ち尽くすのみでした。ああ情けない。
それでも残る1匹はどうにか取り押さえられたようで、沢山の人に隠れて見えない状態が続きます。てっきり私は、そのまま手足を縛られて出てくるかと思っていたのですが……人が散って姿を見せた猪は、血を流し動かなくなっていました。首筋に包丁を叩き込んだ、とのことです。
警官が「できれば殺したくなかった」と言っていたことから不本意な処置だったようですが、何がまずかったのかはよくわかりません。抵抗が予想以上に激しかったということなのでしょうか。
何にせよ、さっきまで走り回っていた生き物が血を流して動かなくなっている光景は何とも言えず薄ら寒いものでした。凶器に使われた包丁が、血だけではなく脂にも塗れていたことがさらに生々しさを加速。結局、亡骸が毛布に包まれ車に積まれ走り去っていく*6までその場を動くことができませんでした。
今回の騒動を見ていて思ったこと。野生動物凄ぇ。そして、そんな凄い野生動物を数と道具に任せて圧倒してしまう人間怖ぇ。ついでに「可哀想、捕まえて山に逃がしてあげたがった」と考えてしまった自分も怖ぇ。その山が人間の手によって削られ続けたからこそ、人里に迷い出る羽目になったのにね。
なお、逃走した1匹は未だに発見されていないそうです。今はただ、人と猪の双方が無用に傷つくことのないよう祈りたいと思います。静かな方を目指している内に、自然と山に帰り着いてくれれば一番なのですが。